研究概要

研究目的

悪性腫瘍による死は、今や国民の死因の約半分を占める。難治性悪性腫瘍を根治する新しい治療法を切り開くことは、すべての人々の悲願である。今、癌克服へのパラダイムシフトを呼ぶものとして、「癌幹細胞」が注目を集めている。癌化とは、細胞が癌幹細胞化した時点で成立し、癌幹細胞は腫瘍組織全体を供給しながら拡大・浸潤し、宿主を滅ぼす。治療抵抗性が高い癌幹細胞を根絶することが「治癒」を意味し、一方で、 残存癌幹細胞の再活性化は「再発」、癌幹細胞の移動と局所への生着は「転移」を意味する。すなわち、癌幹細胞こそが腫瘍の源であり、治療の標的である。しかし、癌幹細胞に関する研究は まだ世界的に始まったばかりで、解決すべき問題が山積している。

癌幹細胞は正常幹細胞と同様に、微小環境(癌幹細胞ニッチ)によって維持されており、癌克服のためには、種(たね)としての癌幹細胞と、それに対応する土壌としてのニッチの両方が治療標的となりうる。本研究においては、基礎・臨床の幹細胞領域で世界的トップランナーの視点と技術を統合して、各腫瘍領域における癌幹細胞を同定・分離し、癌幹細胞固有の性質と治療抵抗性に繋がる癌幹細胞維持機構を明らかにし、新しい腫瘍制御技術基盤を確立する。このような幹細胞コンセプトを根幹に据えた癌研究体制は我が国には現時点で存在しない。得られる成果は、癌幹細胞やニッチの維持に必要な分子を標的とした薬剤開発などの基盤整備を通じて、さらに広い分野に渡る癌研究を刺激し、医療水準向上に貢献できる。

研究期間内に、何をどこまで明らかにするか

(1)各腫瘍の癌幹細胞の同定と性状解析

ヒト癌幹細胞を同定・解析するために、新たにマクロファージ寛容を導入した次世代高効率異種移植モデルを確立する。この実験システムを用いて外科系・内科系の臨床検体から癌幹細胞を同定・純化する。また遺伝子操作により、消化器系、神経系、造血器系、間葉系の各種癌幹細胞を作製する。純化および人工癌幹細胞を用いて、それに特異的に発現されている分子や、癌幹細胞化過程における各種機能分子の時系列変化とシグナル経路を解明し、癌幹細胞の未分化性維持および細胞周期制御の鍵となる標的分子を決定する。これらの癌幹細胞特異的抗原を同定し、癌幹細胞特有の未分化維持・細胞周期制御メカニズムを明らかにする。

(2) 癌幹細胞ニッチの同定と幹細胞維持機構の解明

ニッチおよびG0期癌幹細胞を可視化するシステムを開発する。ニッチ構成細胞を分離・純化し、ニッチ構成細胞の起源を明らかにする。純化したニッチ構成細胞の遺伝子・蛋白発現を解析し、各種細胞や低分子ポリマーによる優れた人工ニッチモデルを作製し、幹細胞・ニッチ制御をin vitroで検定し、ニッチ責任分子群を同定する。以上の癌幹細胞ニッチ環境情報を基に、癌幹細胞側のニッチ環境受容機構の研究も進め、癌幹細胞維持シグナルを解明する。

(3) 癌幹細胞を標的とした新規治療法開発

純化した癌幹細胞とニッチ構成細胞の解析には、少数細胞集団を対象とした解析技術を導入する。デジタルPCR法をはじめとしたスモールスケールでの遺伝子発現解析および新規蛋白発現解析技術を導入する。癌幹細胞を根絶するには、抗体による殺細胞、細胞周期制御・生存維持蛋白などの幹細胞維持機能分子を標的とした治療法、ニッチ構築や維持シグナル抑制などの方法が考えられる。得られた情報に対しシステム生物学的手法により癌幹細胞化・維持シグナルシミュレーションを行い、癌幹細胞システム維持の鍵となる遺伝子を抽出する。鍵分子の決定後、これらを標的とした低分子化合物や抗体の開発のため、ヒト癌幹細胞を移植した異種移植モデルを用いた薬剤候補のスクリーニングを行う。

本領域の発展がもたらすことが期待できる学術水準の向上・強化

本領域は、癌研究と幹細胞研究が融合して初めて成り立つ領域であり、特に癌幹細胞の根絶技術の開発という目的は、細胞生物学・転写・バイオインフォマティクス・プロテオミクス等を統合して、癌幹細胞およびニッチ研究者の「多様かつ新たな視点や手法による共同研究」を推進することでこそ達成される。また、癌幹細胞研究に対してすでに諸外国において大型予算が投下されており、我が国においては「立ち遅れているため各段の配慮を必要とする」領域である。癌化という現象を癌幹細胞化とニッチ形成のふたつの因子に分けて研究することで、癌制御研究の新しいパラダイムを展開できる。様々な基礎・臨床分野の研究者を癌分野に参入させるだけでなく、明確な細胞・標的分子の抽出により、例えば癌幹細胞を狙った薬剤供給システム(Drug Delivery System)などの開発を通じ、広く我が国の生命科学に貢献する牽引力となりうる。

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